不器用なヒト。





「一緒に行きましょうか。」

「ああ。」


「こちらの方が良いと思うのですが。」

「・・ああ。」


あなたは私の言葉にただ「ああ」と言うばかり。

私にはその言葉が了承なのか否定なのか何なのかわからないのです。

前に一度「『ああ』ではなく他の言葉で言ってください」とお願いしても、出てきたのはやはり「ああ」でした。



+++


「もうすぐ雨が降りそうですね。」

「・・ああ。」

二人で空を見上げると、ねずみ色の大きな雲が近くまで降りていました。

今にもゴロゴロと音を立て雨が降ってきそうな雰囲気です。

「家まで走りましょう。」

私の言葉に彼は頷くと一緒に走り出しました。

すぐに彼の長い足は私を追い越し、その広い背は私の視界を埋めました。

そしてその背はだんだんと遠のいていき・・・

なぜかぴたりと停まりました。


「どうしたのですか?」

私のその言葉に応えるように彼の右腕が伸び、大きな手のひらが私の手首を捉え、優しく引っ張ると彼は走り出しました。

私も彼に引っ張られてまた走り出します。

そしてあなたは一瞬ちらりとこちらを振り向くと、

「濡れたら風邪をひいてしまうから。」

と言ってまた前へと顔を向けました。

耳が若干赤く見えるのは気のせいでしょうか。

私はなんだかその様子がおかしくてクスクスと笑ってしまいました。

その後、私たちが家路に着くと同時に小雨が降り、やがて本降りになったのでした。






不器用なあなた。

優しいあなた。

頼もしい、あなた。



そんなあなたのことが私は今日も大好きです。